リウマチ・アレルギーセンターこのページを印刷する - リウマチ・アレルギーセンター

リウマチ・アレルギーセンター部門は,千葉東病院アレルギー科と一体となり
リウマチ性疾患、膠原病の臨床的、基礎的研究をおこなっています

スタッフ

・リウマチ・アレルギーセンター部長
松村竜太郎
・アレルギー科医長
中澤卓也
・アレルギー科医員
二見秀一
・アレルギー科医員、臨床研究部研究員
大矢佳寛

おもな研究課題(臨床的研究)

『関節リウマチに対する生物学的製剤治療の最適化に関する研究』

A 後期高齢者に対する生物学的製剤治療
高齢化社会の進展に伴い,高齢の関節リウマチ患者が増加してきました。そして高齢の関節リウマチ患者に対しても生物学的製剤治療が施行される様になりました。しかし、保険制度が異なってくる75歳以上の後期高齢者に対する生物学的製剤治療の実態報告は少なく、その有効性、安全性は明らかではありません。
千葉県内のリウマチ治療基幹病院に対して、生物学的製剤治療中の後期高齢患者数と使用薬剤を調査しました。
さらに千葉東病院における生物学的製剤治療中の75歳以上の関節リウマチ患者の背景と、治療効果、有害事象を検討しました。
その結果、生物学的製剤治療をおこなっている患者さんの約15%が75歳以上であり、生物学的製剤治療が高齢者にも広まっていることが明らかになりました。また、その半数は75歳以上になってから、生物学的製剤が導入されていました。
当院における75歳以上の生物学的製剤治療中の患者の,治療成績を疾患活動性総合指標における寛解率、機能的寛解率、構造的寛解率を検討したところ若年者とほぼ同じであり、有効であることが明らかになりました。
一方、有害事象はやや多く見られ,主として加齢に伴う変化と感染合併が認められ、注意が必要と考えます。
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B 生物学的製剤治療における結核スクリーニングの最適化

関節リウマチに対して、生物学的製剤治療が行われ、その効果は著明なものがあります。しかし、その免疫抑制により危惧される有害事象もあります。十数年ほど前、スペインで生物学的製剤が使用されたとき、高頻度で結核の発症がありました。それ以前にアメリカでの使用では、認められなかった結核が、結核の頻度が高いスペインで使用されたとき、高頻度で発症したのでした。
この事実から、日本においては生物学的製剤の使用の際、結核感染の既往(潜在性結核)をスクリーニングすることが求められています。このスクリーニングには、当初ツベルクリン反応が使用されましたが、48時間間隔での2回の通院が必要であり、BCG接種の影響もあり、問題点のあるスクリーニング法です。
最近、インターフェロンγ遊離試験法という、一回の採血で施行できる方法がおこなわれる様になりました。
このインターフェロンγ遊離試験には、現在QFT法とT-spot法の二種があり、一長一短です。私たちは当院倫理委員会の承諾の元、この二種のスクリーニング法を同時に施行し(経済的患者負担は増加しないよう工夫しました)その感度、特異度を検討中です。
中間報告では、QFT法の方が感度が高いのですが、判定保留が多く、その有用性を検討中です。
C 生物学的製剤治療による寛解導入後の寛解維持療法

生物学的製剤は非常に有効な治療法ですが、高額であり、点滴、注射など患者さんの負担も多い治療です。生物学的製剤の使用により寛解、低疾患活動という初期の治療目標を達成 した後、その良い状態を維持することが重要と考えます。その方法を検討するため、当院の倫理委員会の了承のもと、以下の研究を施行中です。
研究の概要
関節リウマチに対する生物学的製剤により、寛解、低疾患活動性状態に改善した患者の、 寛解維持のための治療法を検討する。
背景
1.生物学的製剤により、寛解、低疾患活動性を達成できる患者が増加してきた
2.高額、点滴皮下注射の治療を長期に継続することが困難な患者がおおい
3.長期間生物学的製剤を使用した場合の安全性に関してかならずしも確率していない。
生物学的製剤にてSDAIにて寛解、低疾患活動性を達成した患者に、同意を得て、
a.バイオフリー群 生物学的製剤を中止して、経過を観察する
b.DMARD群 生物学的製剤を中止して,プログラフ1mg+ブシラミン200mgを新たに併用
の2群に分け、1年間治療をおこなう。
プライマリーエンドポイント SDAIによる寛解、低疾患活動性を維持
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D 生物学的製剤の使用中の患者さんの意識調査
関節リウマチに対する生物学的製剤の治療は、非常に有効ですが、高額であり、点滴、注射などの患者さんの負担も多い治療法です。

この治療法の患者さんの受け止め、費用負担、効果、家事を含めた経済効果について調査を行いました。
生物学的製剤使用中の関節リウマチ患者さんは経済面から生物学的製剤の費用、効果をどう評価しているか?
臨床リウマチ vol.26/no.1 28-34
1. 関節リウマチで生物学的製剤の投与を受けた患者さん445名に対してその効果、負担についてアンケート調査をおこなった。
2. 対象患者は78%が女性で平均年齢57才で、リウマチ歴10.9年であった。
3. infliximab使用136例 tocilizumab使用112例,etanercept使用108例,adalimumab使用44例,abatacept使用25例、golimumab使用4例であった。
4. 全般効果は「たいへん良い」66%,「少し良い」27%と効果を高く評価していたが、 生物学的製剤により医療費が3万円以上増加した人が60%であった。公費負担などで負担増が少なかった人は約1/4であった。。
5. 全体の費用対効果については、「高い」としたものが42%、「効果に見合う」としたものが36%であった。
6. 全体で収入増加があった例は10%と少なかったが、これは以前から仕事による収入がある患者の1/4であったが、年収60万円以上が半数近かった。さらに2/3の患者さんが家事労働時間の増加があり、毎日2時間以上が過半数であった。
さらに、このような関節リウマチ治療で必要な、リウマチ専門病院と、かかりつけ医の連携に関する患者さんの意識調査を予定中です

『皮膚筋炎、多発性筋炎と間質性肺炎における自己抗体の検討』

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皮膚筋炎、多発性筋炎という膠原病では多彩な自己抗体が認められます。
特にアミノアシルtRNA合成酵素(Aminoacyl-tRNA Synthetase:ARS)に対する抗体は、間質性肺炎合併例や、機械工の手を呈する例で多く見られ、臨床的特徴との関連が注目されます。また、膠原病の診断がつかない間質性肺炎例でも陽性になることがあります。
アミノアシルtRNA合成酵素(Aminoacyl-tRNA Synthetase:ARS)は、生体内でtRNAにアミノ酸を転移する役割を担う酵素です。タンパク質を構成する20種類のアミノ酸それぞれに対し、対応するARSが1つずつ存在することが知られています。
現在、8種類の抗ARS抗体が発見されていますが、現在保険適応で測定できるのは5種のARSの混合物に対する抗体で、個別のARSに対する抗体価を測定することは出来ません。
そこで、私たちはEuroline myositis profile の測定系を用いて、皮膚筋炎、多発性筋炎、原因不明の間質性肺炎の患者血清中の抗ARS抗体を個別に測定し、その頻度、疾患特異性、症状特異性、治療反応性を検討中です。
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『全身性エリテマトーデスの多彩な臓器病変に対する治療法の検討』

全身性エリテマトーデスではウイリアムオスラーが述べたように心臓、肺、脳、腎、関節など全身に病変が生じます。
ステロイド(ステロイドパルス療法を含む)や免疫抑制剤の治療は、有効ですが、それだけでは十分な効果が得られない特殊な病変があります。
私たちは、免疫複合体の関与が少なく、壊死性糸球体炎の像を呈したSLEの腎病変でステロイドパルス療法やIVCYが有効でなかった例に血漿交換(DFPP)が著効を示すことを報告しました。
また、従来の治療に抵抗性のギラン・バレー症候群様の神経障害を呈した例に対して、IVIgが有効であることを示しました。
さらに、治療抵抗性のループス腎炎に対し、Infliximab の有効性を明らかにしました。
Clin Exp Rheumatol. 2009 May-Jun;27(3):416-21.
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おもな研究課題(基礎的研究)

『制御性T細胞を用いた免疫抑制療法の検討』

免疫抑制療法とは

現在、免疫能の異常により様々な疾患がおきることがわかっています。
アレルギー、関節リウマチなどよく知られた疾患のほか、膠原病といわれる病気の多くは自己に対する異常な免疫能が引き起こす病態であると考えられています。免疫異常が引き起こす疾患に対しては、現在、ステロイドや免疫抑制剤と呼ばれる薬剤が主に治療に用いられています。
また、免疫抑制剤は膠原病のほか、臓器移植後の拒絶反応を抑制するためにも広く用いられています。

制御性T細胞とは

リンパ球は病原体など有害な異物を認識し感染症から身を守る免疫系の大事な細胞ですが、その一部に、リンパ球自身の働きを抑制する作用をもった特別な集団がいます。
近年研究が進んでいるそのひとつが制御性T細胞です。Foxp3という転写因子を持つことを特徴として、健康な人にも一定の割合で存在していることが分かっています。
これまでの研究によりこの制御性T細胞は、自己免疫疾患、移植後の拒絶反応の抑制に関与していることがわかっています。

免疫抑制療法はバランスが大事

しかし、免疫系に抑制をかけることは病原体から身を守ってくれている免疫系を低下させることでもあります。
重篤な感染症を発症させたり、正常な体に備わる発癌の予防機構を低下させて、癌を発生、増悪させたりする可能性があることがわかっています。
健康な体は、極めて精巧な免疫系のバランスの上に成り立っています。治療の目的で免疫抑制をする場合も、このバランスをうまく保つ必要があります。

制御性T細胞を使って安全な免疫抑制療法ができるだろうか

自己免疫疾患や臓器移植後の治療には病原体に対する免疫系に影響を与えない手法、発癌などのリスクに影響を与えない手法がみつかると、とても理想的です。
制御性T細胞を用いた免疫抑制療法はそうした可能性を秘めているのではないか、と私たちは考えています。
安全で効果的な免疫抑制療法の確立に向け、私たちは制御性T細胞を用いた基礎研究を行っています。
写真8